ゼロの愛人 第5話


「枢木卿達から見れば、僕は味方だからね。監視対象が離れた以上、僕が直接ここにきて監視する、という方向で進めたらあっさり来る事が出来たんだ」

ふわふわ卵のオムレツを美味しそうに頬張りながら、ロロは報告した。
兄にべったりなロロが、兄を追う事に周りは疑問を持たないだろう。

「お前以外にも来ているのか?皇帝の兵が」

ピザを美味しそうに口に運びながらC.C.が尋ねた。
カレンはそんなC.C.を嫌そうな目つきでじっと見つめていた。ああ、チーズが垂れる、トマトソースがっ!ゼロの衣装のままピザを食べるな!と言いたいが、ルルーシュが用意した以上文句は言えない。

「僕が知るかぎり6人。でも、食堂には来てないよ。人ごみに紛れて巻いたから」

自然にはぐれた風を装ってね。
100万人が脱出したあの日以降、秘密裏にエリア11から蓬莱島へ向かう船が出ていた。行政特区の式典に来れなかったが、蓬莱島へ行きたいと願う日本人や主義者、共にブリタニアと戦いたいという他のエリアのものたちが乗り込み、やってくるのだ。
簡単な身分証明と、厳重な持ち物検査が行われるため、ロロもカッターを持ちこむのが精いっぱいだった。
まあ、既に愛用のナイフをC.C.から返してもらってはいるのだが。

「ちなみに、これが潜り込んだスパイだよ」

ロロが差し出したカメラには、隠し撮りされた写真がいくつも入っていた。
一見すると周囲の様子を記録しているように見えるのだが、必ずブリタニア人が端の方に映されているのだ。

「わかったわ。これは私の方でやっとく」

野菜いため定食に箸を着けながら、カレンはカメラを受け取った。

「それにしても、クロって何なんですか?しかもさっきのアレは何ですか!」

ロロは不愉快気にC.C.を見ながら言った。

「ルルーシュと言う名の黒髪に紫の目をした10代後半のブリタニア人男性。その情報は色々と危険だろう?だから偽名をと思って、私がつけた」

その上ルルーシュは母親似だ。
ヴィ家を知る人間が見れば気づかれてしまう。

「だからって・・・兄さんにはもっと気品のある名前が相応しいのに」
「クロは黒。あいつは髪も服も黒いから、解りやすいだろう?」
「黒ならせめてノワールとか・・・」
「いいじゃないか。兄がクロ、弟がロロだ。よく似た名前だと皆納得しただろうさ」

クロ・ロロ・ゼロ。まるで3兄弟のようだろう?
言われてみて、確かにそうだと納得し頬を染めたロロに対し、魔女は単純な奴だと口元を歪めた。
それに気づいたロロは、こほんと咳払いをした。

「そ、それは、解りました。名前はクロでいいです。ですが、先ほどのやり取りは容認できません」
「いいんだよ、あれで。お前、ルルーシュを見る周りの目に気付かなかったのか?」
「気づいてますよ」
「アレに気づかないのってルルーシュぐらいでしょ?」

ここに住む以上ゼロではない時間も当然出てくる。
今のように影武者をC.C.か咲世子が行い、ルルーシュが一般人を装い周辺に目を向けるなんて事もある。
だが、そこで問題が起きた。
女性よりも細い腰に滑らかそうな白い肌、艶やかな黒髪が錦糸のようにさらりと揺れ、釣り目がちな紫水晶の瞳はキラキラと輝き、薄く色づいたその唇は、想像よりも低めだが、美しい声を奏でる。
ブリタニア人だという事もあるが、ルルーシュの姿は人目を引きつけた。
生まれ持ってのカリスマ性。
普段は仮面と外套の下に隠されたそれが、惜しげもなく曝されているのだ。
そんなルルーシュの事はあっという間に噂となり、欲でぎらついた視線を浴びる結果となった。

「常に私とカレンが傍に居る訳ではないからな、そのうえ私たちの食環境のひどさにアレは驚いていた。ならば、ゼロとして動かない日は人の目に触れていながら絶対に皆が手を出せない場所に押し込め、尚且つ環境の改善を図ろうという話になってな」

私とカレンの間で、だが。
その結果、元々何かあった時用に開けていた1階倉庫を改修し食堂にしたのだ。
日々疲れている黒の騎士団の面々に、美味しい料理を食べさせたい。というカレンの発案と言う体でC.C..がそれに同意し作られた食堂は、最初の頃こそ団員の女性だけで運営していた・・・いや、運営しようとしていたが、碌に経験のない人物を集めた所で碌な結果にはならない。
いつもの炊き出しと大して変わらない状況で、最初は豊富にあったメニューもいつのまにやら3品しかない状態となった。

「成程、碌な結果にならない姿を兄さんに見せつけ、手を出すように仕向けたわけですね」

その上人目につく所に置くことで、連れ浚われたりする危険性を排除し、欲にぎらついた視線を美味しい料理へと移させることで、厨房に立ち入ろうなんて考えすらも打ち消す。
あの食堂と厨房はある種の聖域と化し、ルルーシュはそれに守られる形となった。
しかも食堂を出てすぐ横には上への階段がある。
シャッターを下ろし、騎士団の女性陣と別れのあいさつをしたらもう上へあがるだけだ。立ち入る隙などありはしない。

「しかも、良いストレス発散になっているようだぞ?」

料理をしながら今後の作戦を考えているようだが、普段からいくつもの思考を同時にしているその頭の一部を、店の経営という生死と関係ない事に使わせるだけでも脳の緊張感は幾分か緩和されるだろう。
その上、料理を出せば、美味しい美味しいという声が聞こえ、満足げな笑みを浮かべた人々が店を後にする。
小さいな事ではあるが、それはまちがいなく人々を幸福にしていて、遠目からそれを見て、聞いているルルーシュは、そんな彼らの反応で知らず心をいやしていく。
しかも料理は体力勝負だ。
一仕事終えた後は体は疲れ切っている上にお腹がすく。
食欲が衰え、体力が落ちていたルルーシュだったが、食事量が増え(と言っても人並より少ない)筋肉が増えた(本人談)ことで、体調もすこぶる良くなったらしい。
なのでゼロとして重要な案件が無い限り、ルルーシュは店を仕切り、細々とした事に思考を巡らせながら料理を作るという日々を送っていた。
ちなみに開店時間は10時から17時までと短く、その前後の時間にルルーシュは書類仕事をこなしている。

「だが、あいつに手を出そうという愚か者が消えるわけではないだろう?」
「まあそうですね」

欲にぎらついた視線を向けていた客を思い出し、ロロはチキンライスを口に含みながら眉を寄せた。美味しい料理を食べているというのに(しかもロロの好物)あの光景を思い出した途端味がしなくなる。

「そこで、私がたまーにゼロの姿のまま、ああやって視察に行くことにしたんだよ、なあカレン」

魔女はにたりと笑った。
その笑いに、カレンは思わず目をそらした。

「そ、そうね」
「間違っても、ゼロの影武者をしている事を忘れた娘が、お腹が空いたからと食堂に行った事がきっかけなんて言わないさ」
「言ってるじゃないの!!」

カレンは真っ赤になりながら、にやりと笑うC.C.に怒鳴りつけた。

「貴方も影武者を?」
「・・・あの仮面とマントを着けて、それっぽく喋れさえすれば、誰でもなれるのよ。ってかさせられるのよ」

主に咲世子とC.C.が影武者をしているが、ただ辺りを巡回したりする程度なら、カレンが行う場合もある。体型は外套の下にあるのだから解らないし、身長はシークレットブーツを用意すれば事足りる。
カレンにとってゼロは以前崇拝の対象だった。ヒーローと言っていい。その正体がルルーシュと知れた時点で、流石にその思いは若干薄れたが、あこがれは根強く残っているため、はっきり言って自分がゼロになるのは抵抗があった。
だが、ゼロの衣装を着て歩くと、人々の対応ががらりと変わる。それを見て来いと言われるのだ。ゼロでしか見れない事、ゼロでは見れない事。どちらも知ることで見える事もあるからと。
そんなカレンはある日の巡回後、お腹が空いたとついいつもの調子であの店に入ってしまい、辺りの視線でハッとなり、どうしようと思い悩んでいた時、たまたま店内を覗いたルルーシュに助けられたのが始まりだった。
あの日は中身がカレンだと知ってたルルーシュは、即座に状況を理解し「ああすまないなゼロ、もうこんな時間か、お腹が空いただろう?今用意して運ぶから、上で待っててくれ」と、にこやかに対応したのだ。
その後、それを聞いたC.C.の悪ふざけが始まった。
その結果、ルルーシュは陰でこう呼ばれている。
ゼロの愛人、と。

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